<特別投稿>今帰仁城跡や周辺の発掘、修復や管理をおこなう文化財係り。専門家の目がとらえた今帰仁城跡。

世界遺産登録10年(下)

課題となる次世代に伝えるための取り組み

国・県・地元の役割

 最後に、今後の課題について、考えたい。世界遺産条約には、締結国の役割として次のような記載がある。

(1)文化遺産に対し社会生活における役割を与え、これらの遺産の保護を総合的な計画の中に組み入れる政策をとること。

(2)文化遺産の保護、保存及び整備のための機関を自国の領域内に設置すること。

(3)学術的及び技術的な研究及び調査を発展させ、自国の文化遺産を脅かす危険に対処することを可能にする実施方法を開発すること。

(4)文化遺産の認定、保護、保存、整備及び活用のために必要な立法上、学術上、技術上、行政上及び財政上の適当な措置をとること。

(5)文化遺産の保護、保存及び整備の分野における全国的又は地域的な研修センターの設置又は発展を促進し、並びにこれらの分野における学術的調査を奨励すること。


持続可能な活用のためのルールづくり

 登録を目指して熱心に調査し推薦書を作成した時期が一段落すると、往々にして活用を名目に千客万来へとシフトする。観光収入は整備や管理を行う上でも必要である。しかし、保存という見地から言えば、観光のあり方には当然限度がある。各資産では規模の大小あるが、観光被害が起きている。芝や石畳道が観光客に踏みならされ痛む例が報告されている。また、拝所においては、伝統的な参拝のルールを知らない人が、植物の持ち帰りや、香炉を踏みつける、祭壇を勝手に作って拝むなど想定外の事態が起こっている。これらはいずれも、顕著で普遍的価値を脅かす事態を引き起こしている。仮に、何の保護管理措置も講じられず改善の見込みがない場合には、「世界遺産リスト」から削除されることになる。沖縄の「琉球王国のグスク?」が、そのような不名誉に甘んじないためにも、各資産を預かる自治体を中心にこれを事前に予防し、管理の仕組みや体制を整えることが重要である。

 また地域住民においては、ガイドライン作り、利用者が適切な利用方法で遺産を廻っていただけるように監視するとともに、自らも見学に際してはマナーを守ることが重要である。持続可能な遺跡活用の一例として、世界遺産の中にはクフ王のピラミッド(エジプト)などのように、観光被害回避のため、時間や人数あるいは入場できる区域の制限を設けているところも多い。今後は、保存と管理の在り方についてこの10年を振り返り、各資産に訪れた変化をチェックし、保存と管理の在り方について議論されるべき時期にきている。

 

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▲写真 多くの来訪者が同じ導線を歩くため、踏みならしによって芝が欠損

 

 

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▲写真 マナーの悪い参拝者によるゴミ問題の一例

 

文化遺産保護・研究機関の設置

 地方自治体や地元の取り組みは、発掘した情報を公開する。あるいは石垣を復元して、来訪者へ見てもらう。また、世界遺産を目玉にしたイベントを開催し、自らの誇りにするとともに、経済活動の核とする。という実に単純なことの繰り返しである。この点では、(1)-(5)の中で、(1)については「琉球王国のグスク-」は社会生活における役割が与えられ、総合的な計画の中に組み入れられつつあるといえる。また、(2)についても資産を預かる各自治体を中心とする努力が地道に続けられている。

 しかし(3)(4)については、考古学、文献史学、民俗学、建築学、行政など各分野ごとに進められており、産学官の関係者が集まり、連携した取り組みが進められるとことが早急の課題と言える。1977年から86年まで奈良国立文化財研究所長を勤めた坪井清足(つぼいきよたり)氏は、1980年代から沖縄のグスク整備や調査に関わる中、これを予見するように、グスクや同時代の遺跡について調査研究する機関としての「グスク研究所」の設立を提唱されている。人類の宝である「琉球王国のグスク-」の実態の把握と保全のためには、個々の自治体の地道な努力とともに、それを束ねる研究機関が、次の10年の間には設置されていることを期待したい。
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